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* 以下は学研の『教育ジャーナル』2004年5月号に掲載された作品(加筆、変更あり)です。

『希望のオリーブ』

聖都エルサレムの東部に位置するパレスチナ人村、ジャベル・ムカベルには今、イスラエルによって新しいユダヤ人入植地、『ノヴ・ザハヴ』の建設が進められている。ヘブライ語で「黄金の景色」を意味するこの入植地からは、その名の通りエルサレム旧市街にある黄金のドームがよく見える。

「軍や警察に行く手を阻まれた時は、一箇所にかたまらずになるべく広範囲に散ってください」。デモ主催者たちは拡声器を手にヘブライ語と英語で注意事項を説明する。「逮捕された場合は、われわれ主催者か、リストにある弁護士にすぐに連絡すること!」。エルサレム郊外の公園に集まった参加者たちは一見すると旧市街散策をする観光客のようだが、警察車両が出動し、彼らに厳しい監視の眼を光らせるその雰囲気は明らかに観光とは異なる。世界中から集まった彼らは、イスラエルの占領地政策に反対するデモ参加者たちだ。

オリーブの苗木を手に
デモ行進をする参加者
「シャロン首相はユダヤ人入植地の撤退を約束しておきながら、現実にはその数を増やしている」とある初老のアメリカ人デモ参加者は訴える。今回のデモは建設中の入植地、『ノヴ・ザハヴ』に侵入し、パレスチナの象徴であるオリーブの苗木を植樹しようというものだ。普段は『違法行為』、『犯罪行為』とはまるで縁のなさそうな参加者たちが、イスラエルの法律を犯すのだ。建設中の入植地に入り込めば逮捕される可能性がある。外国人の場合は強制送還だ。

大型バスを数台連ね、現地に到着した参加者たちは手にオリーブの苗木を持ち、入植地の有刺鉄線をこじ開けた。とはいえ参加者の大半は老人や子供、女性。とても“突入”といった雰囲気ではない。ゆっくり助け合いながら斜面を下る姿はまるでハイキングのようだ。イスラエルの警官も高台の警察署からこちらを監視しているだけでこれといった阻止対策もとっていない。

「警察も最近はこの手のデモにあまり乱暴をしなくなった」とデモ主催者の一人であるシャイ・ガルスキー(25)は言う。「世界のメディアの前でゴム弾や催涙弾を発砲するのは国家のイメージをますます悪くするからね」。シャイは『人権』や『博愛』を重んじるヨーロッパやアメリカからやって来た平和活動家ではない。イスラエルに暮らし、パレスチナ人のテロや襲撃に怯え、フルートを愛する一般イスラエル国民だ。彼のようなイスラエル人平和活動家は自分たちに自爆テロや襲撃を仕掛けるかもしれないパレスチナ人の人権のために戦うという矛盾を抱えている。「これは基本的人権の問題だ」。シャイはイスラエルの政策を強く非難する。「今、イスラエルがパレスチナ人にしているのは『民族浄化』以外の何ものでもない」。

有刺鉄線越しにオリーブの
苗木がリレー渡しされた

『希望』のオリーブは育つのだろか?
今回のデモは警察との衝突もなく、非暴力の形で幕を閉じた。ブルドーザーで整地された山の斜面には、細くて小さなオリーブの苗木がいくつも頼りなさそうに立っている。これはパレスチナに存在する細くて頼りない『希望』にそっくりだ。安息日が明け、工事が再開されればその『希望』も大型ブルドーザーのキャタピラに踏み潰されるだろう。「これだけ植えたんだから、もしかしたら1本くらいは…」。デモ参加者はそう思っているに違いないが、それは絶望的な『希望』だ。「トダ!トダ!(ありがとう!ありがとう!)」、ジャベル・ムカベル村のパレスチナ人たちはそれでもイスラエル人デモ参加者や我々にヘブライ語でお礼を言った。

ここには入植地問題以外にも “テロ防止”の名目で建設中の壁や柵の問題がある。700kmに及ぶその柵や壁はパレスチナとイスラエルを分離し、70万人のパレスチナ人に影響を与えているの

だ。「壁ではなく信頼を築こう」。活動家の持つプラカードにはそう書いてあった。植えたオリーブの苗木は育たないかもしないが、勇気と良識のあるイスラエル人とパレスチナ人の信頼は育つのかもしれない。「あれだけ植えたんだから、もしかして一本くらいは…」。この“信頼の苗木”には『希望』があると信じていたい。


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