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『イスラエル路線バス 怯える乗客』

2003年 7月 29日 エルサレム

エルサレムの中央バスステーションに向かうためにジャッファ通りのバス停からバスに乗る。5シェル40アグロット、日本円にして140円弱の乗車賃。エルサレム市内なら距離に関係なく一回の乗車がこの値段だ。運転手に乗車賃を手渡すとバスは急発進。他の中東諸国同様ここのバスもかなり運転は乱暴だ。その上、どういう訳だか運転手はいつもイラついている。イスラエルでは鉄道網が貧弱なため、多少乱暴でもこの路線バスが人々の重要な足となっている。

今日は乗るバスを間違えたようだ。でもたまには違う路線を使うのも気分転換になっていい。どのバスも最終的には中央バスステーションで停まるのだから・・・。

バスはユダヤ宗教派の多く住む地域を通過したため、正統派のユダヤ教徒で混み合ってきた。彼らは夏でも黒のロングコートに黒ズボン、黒の帽子を被っている。暑いのに大変だろう。私はバスの中を眺め、『エルサレム』、『ジャッファ通りを通過』、『正統派ユダヤ教徒で込み合うバス』の三つの状況下のある事に気付き、「しまった!」と思った。このバスには自爆テロを起こされる好条件が揃っている。言い知れない恐怖心が高まった。「テロに遭うバスなんて、全体から見れば非常に稀なんだ。今は停戦合意もなされている。大丈夫だ、大丈夫」と自分に言い聞かせながらも、どんどん乗車してくる人々を凝視した。「お願いだから、『アッラーアクバル(神は偉大なり)』なんてアラビア語で叫び出さないでくれよ」。

不安とは裏腹にバスは何事もなくエルサレムの中央バスステーションに到着。いつものことだ。バスの急発進とは違い、この『恐怖』にはなかなか慣れることができない。エルサレムの住民も同じだろう。


イスラエル国内では各バス停、バスステーションに警備員を配置してテロの警戒に当たっている。その人数や規模からいっても相当の予算が割かれているに違いない。しかしわれわれ利用者にとっての問題はその予算ではなく、警備体制の厳しさからくる不便さだ。エルサレムの中央バスステーションでは入場者への金属探知機によるボディチェックと、荷物のX線チェックが行われるため、入り口前は絶えず込み合っている。テルアビブのバスステーションではX線の荷物検査機が配置されていないので、手作業で荷物検査を行う。急いでいる時には最悪だ。
武装警備員が監視する中、乗車する乗客

私の場合、撮影機材を含めた荷物の総量が30kgを超えるが、外出時、その荷物から離れることは許されない。この国では持ち主不明の荷物は『不審物』として即刻、爆発物処理班が爆破してしまうからだ。 爆発物を忍び込まされる可能性があるので人に荷物を預けたり、預けられたりしてもいけない。だからちょっと先の乗車券窓口にも、トイレにもいちいち重い荷物を全て持っていく。これじゃ出るものも出ない。地獄だ。

電話ボックスで電話している時も、ドアを開け、自分の荷物にそっと手なり、足なりを添えておくことをお勧めする。そうしないと警備員がすっ飛んできて、極めて不遜な態度で「これはあなたの荷物か?」と質問されることになる。

カメラマンや釣り人が着るポケットがたくさん付いたベストもバス乗車時にはお勧めしない。自爆テロ犯は、正統派ユダヤ教徒や妊婦に扮装し、コートの下に爆破用ベストを着ていることが多いからだ。今年の冬、ハイファからエルサレムに向かうバスでは、私のベストが乗客をパニックに陥れ、バスを停車させてしまった。ハーフコートの下にカメラベストを着ていたのがその原因だ。乗客のあのパニックに満ちた顔は忘れられない。

現地紙の記事に、「バス最後部に座っていた乗客のみが、自爆テロの際に無傷で助かった」という記事を読んで以来、多少乗り心地が悪くてもバスは最後部に乗るというジャーナリストに会ったことがある。あの時は実に虚しい努力だと思ったが、今では私も実践している。

大きな荷物、ベスト、妊婦、何でもないものがこの国の人々を怯えさせ、生活を極端に不便にしている。停戦合意下にあるにもかかわらず、イスラエル国民はテロ警戒の手を緩めていない。彼らは過去の歴史から、それが疑心暗鬼であるとは全く考えていないようだ。

「怖いか?」との問いに、「怖がったら奴ら(アラブ人)の思うつぼだ」という答えがイスラエル人男性には多い。女性の多くは「怖い。だからといって家に閉じこもってばかりいられない」という。

彼らの恐怖心は現地に来てみないと理解できないかもしれない。先日、「報道の仕方が悪いから、中東情勢を真に理解できない」というお叱りを日本人旅行者から受けたが、良い文章も、写真も、映像も疑似体験に過ぎないので現地の雰囲気を体感するには限界がある。ましてや人々の持つ『恐怖心』などどこまで文章で伝わるか疑問だ。ただそういう現実があるということを知るだけでも意味はあると思う。『恐怖心』はパレスチナ側だけでなく、イスラエル側にも存在するのだということを・・・。
混み合う車中。テロには格好の標的だ

聖都エルサレム


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