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森口康秀
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『あれから一年…何が変わった?』

エルサレムの新市街にある私の行きつけのバー、『スターダスト』。暗くて狭い店内にはタバコの煙が充満し、70年代のアメリカンロックが大音量で流れている。「私のこと覚えてる?」はじけるような笑顔の若い女の子に声を掛けられた。一瞬と惑ったが、すぐに思い出した。ちょうど一年前ここで会った空軍の新兵だ。一年経ったとはいうものの彼女の可愛らしさは変わっていない。初々しさは兵隊というよりも女子高校生のようだ。

一年ぶりの再会。
空軍の仕事には慣れたのだろうか?

あれから一年。彼女に出会った日のことはよく覚えている。ここ『スターダスト』で空軍女性新兵たちに声を掛けられ、他のジャーナリストたちも交えて楽しく飲んでいるときに、自爆テロの一報が入ったのだ。場所はここから5分ほどの所にあるロシアン・コンパウンド。バーやレストランが多く、若者に人気の場所だ。自爆を試みたアラブ人が火傷を負ったのみで、他に死者、怪我人はかったので、あまりニュース性の高い出来事ではなかった。

その一年後、同じ『スターダスト』で同じ女の子に出会い、同じようなテロがテルアビブであった。今回は4人が死亡している。

飲んでいるビールも同じイスラエル産の『ゴールドスター』なら、彼女たちが吸っているタバコもイスラエル産の『ノブルス』だ。何も変わっていない。変わったのは『ゴールドスター』ラベルデザインくらいだ。

一年振りに参加したキリスト生誕の地、ベツレヘムでのクリスマスミサも同じような状況だ。いまだにイスラエル軍の検問があり、この地におけるパレスチナ『自治区』の存在は名ばかりのものになっている。前日には一年前と同じように、「ベツレヘムへの立ち入り規制を緩和する」とイスラエル政府から発表された。また一年前と同じくパレスチナ自治区のリーダーであるアラファト議長のミサ参加も、イスラエルによって拒否された。違うことといえば、「アラファトが殺された」などというインチキニュースが流れなかったことぐらいだろうか。

ベツレヘムの入り口にあるイスラエル軍の検問では、映画俳優のようにハンサムなイスラエル兵がろくすっぽパスポートのチェックもせずに、「メリークリスマス。いい夜を過ごしてください」と美しい微笑で検問の通過を許可し、キリストが生まれたとされる聖誕教会では、入場チケットを買えなかった巡礼者たちが教会の警備員と押し問答をしていた。「お金を一生懸命貯めてスリランカからここまで来たんです。ミサに参加できないなんて殺生なこと言わないで!」と拝み倒す若い女性と、「そう言われても・・・」と困る警備員の姿まで去年と同じだ。

ベツレヘムの聖誕教会に集う
パレスチナ系キリスト教徒たち

とはいえ、この国にもよーく探してみれば新しいこともある。少し前まであった『ロードブロック(道路封鎖)』が新しい『セキュリティバリアー』に取って代わった。テロの抑止のために路上に大きな岩を置いたり、アスファルトを掘り起こしたりしてもテロの完全抑止はできない。テロリストとその協力者たちは道路がダメなら、畑でも、草むらでも自在にすり抜けてしまうからだ。だから今では『セキュリティバリヤー』と呼ばれる壁や柵でイスラエルとパレスチナを分離し、イスラエルの治安を維持しようとしている。平和活動家たちはこれを『アパルトヘイトの壁』と呼んでいる。『アパルトヘイト』とはあの悪名高き南アフリカ共和国の人種隔離政策のことだ。この『セキュリティバリヤー』によって生活圏が分断され、70万人ものパレスチナ人たちが影響を受けているという。

アラファト議長は
今年もミサ参加できなかった

報道関係者に対する発砲は前からあったが、同じ国民であるイスラエル人平和活動家への実弾発砲は新しいものだ。25日、ヨルダン川西岸地区でイスラエル人平和活動家がイスラエル兵によって足を撃ち抜かれた。占領地区におけるユダヤ人入植地も新しいものが続々と建設中だ。それに伴い新しい『セキュリティバリヤー』が出来ることも間違いない。

ここでは今まで通りでも、今までと違ってもろくな事がない。パレスチナ人は占領に苦しみ、イスラエル人はテロに苦しむ。そして国際社会は決定的な解決法を見出すことが出来ない。私が初めてイスラエルを訪れたのが12年前。あの頃6歳だった子が今では兵士となって私にM16ライフルを突きつけ、路上で半裸にして爆発物チェックをしている。「この子が18になる頃には、兵役なんて無くなっているだろう」と言ったイスラエル人の願いは今のところ叶っていない。それどころか事態は悪化している。

キリストが起こしたような『奇跡』でもない限り、来年の今頃も、再来年の今頃も劇的に和平が進んでいることはないだろう。ヨルダン川西岸地区がイスラエル占領下に置かれたのは、奇しくも私の生まれ年1967年だ。この地には私と同じ歳の苦難が続いている。日本で派手にクリスマスを祝っているその時に、キリスト生誕の地では人々が占領やテロに苦しんでいるということを日本人は意外に知らない。

                                            キリスト生誕地ベツレヘム


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