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* 以下は学研の『教育ジャーナル』2003年に掲載された作品(加筆、変更あり)です。

『戦場に魅せられた仲間たち』 2 <仕事>

「戦場にはどうやっていくのですか?」という質問を受けることがある。『戦場取材』という響きにはさぞかし危険で恐ろしく、山野を匍匐前進するようなイメージがあるのかもしれない。だから私が「路線バスやタクシーで行くことが多いですね」と答えると、みな一様に拍子抜けした顔をする。勿論それは国や戦況にもよる。50年以上も準戦時下に置かれているイスラエル・パレスチナの場合、意外かもしれないが公共交通機関は機能しているのだ。

仕事後にビールを楽しむ戦場記者やカメラマン
BBCは取材用に防弾車両を使用する
「イスラエル軍、ヨルダン川西岸(ウェストバンク)へ侵攻」、「ユダヤ人地区のレストランで自爆テロ発生」。そんな一報が入ると我々報道関係者は現場に急ぐ。特に軍事侵攻の場合、常駐大手メディアの英国国営放送(BBC)やロイター通信社は自社所有の防弾四駆車で馳せ参じ、我々は割り勘のタクシーで直行する。現地で『TV』とペイントされた紺色の防弾ベストに防弾ヘルメット姿のテレビ撮影隊とすれ違ったりすると、「ここは戦闘地域なんだ」と改めて気が引き締まる。しかし同時に自分の体が柔らかい豆腐にでもなったような心細さを感じてしまう。私を含め、ほとんどの安宿カメラマン仲間は防弾ベストを持っていないのだ。

軍事侵攻された町は気持ち悪いくらい静かである。我々は時折轟音と共に走り抜ける戦車や装甲兵員輸送車をやり過ごし、わざとそこを目立つように歩く。イスラエルやパレスチナの狙撃兵に敵と間違われないよう、世界各国の報道関係者が団体で旗を持って歩くことさえある。まるで戦場ツアーだ。

AP通信社と契約しているアメリカ人のブライアント(33)は写真が一枚採用される毎に50米ドル(約5500円)が支払われる。当然それだけでは食えないのでイエメンで英語の教師もしている。最近そのイエメンで取材撮影中に逮捕・拘束されてしまった。カナダからやって来たデロン(28)もフランス語の高校教師だし、イギリス人のロバート(41)はイタリア語の通訳を副業としている。「この仕事は金のためではない」とは言うものの、自腹取材には金が必要である。みなそれを確保するのに必死だ。

防弾ベストにヘルメットで
撮影するテレビスタッフ

最近では女性の戦場カメラマンも少なくない
韓国系アメリカ人のケン(30)も安宿に暮らす記者の一人だが、給料、経費全て合わせて月に2000米ドル(約22万円)という厳しい条件に苦しみ、たった一ヶ月で“中東のCNN”『アル・ジャジーラ』との契約を切った。物価が日本と変わらないイスラエルでは、宿泊、通信、通訳、保険、交通費等を全て賄い、クライアントに依頼された内容の記事を週に何本も上げるのは難しい。食費を考えたら手元には給料としていくらも残らないだろう。

命を懸けても取材資金にはいつも苦労するし、取材したくてもハエのように追い払われれば頭にも来ることもある。知り合いのイギリス人カメラマンが首を撃たれて死んだと聞いた時には強い憤りと恐怖を感じた。それでも“時間と自由と夢、それに使命感はあるが金はない”という安宿の連中はこの仕事が大好きだ。危険地帯での仕事で考えるのはたった2つ。「いい取材をしたい」、「死にたくない」。いいショットが得られた瞬間の高揚感、いい記事があがった時の充実感、それらはたとえ命懸けであっても何ものにも変えられない。私たちはひとの不幸を食いものにして成り立っているのかもしれないが、その不幸を伝えることは必要だと考えている。普段何気なく見ている新聞や雑誌の紛争地報道はこんな苦労の中で生まれていることをたまに思い出していただけると光栄だ。




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