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「まったく、男なんて金と暇があるとロクな事しないわ...」。 美容院経営をする知人の奥さんが、旦那さんの女癖やお金の無駄遣いを愚痴った一言。これを聞いたのは10年以上昔、私がまだ大学生の頃でした。 経営が軌道に乗るまでは身を粉にして働いて、ある程度余裕が出てくると『遊び心』に火が点くといった現象は何も男に限った事ではないかもしれないですが、やっぱり男に顕著に見られる現象だと思います。しかし、上記の発言は厳密には正しいとは言えません。 正しくは、 「暇を持て余す男どもが集まるとロクな事しない」 ではないでしょうか。経験から申しまして必ずしもお金は関係ないと思います。 一部TTLプロジェクト関係者の間ではご存知の方もおられますが、先日私(会社供与)のノートパソコンが“不慮”の事故で壊れました。原因は水濡れ。以前この『イスラエル現地レポート』でこの部屋の雨漏りについて書きましたから、多くの方は「きっとコンピューターは雨水に浸ってしまったんだろう。大変だなあ、森口さんも」などと考えているかもしれません。事実、事故原因を追求する問い合わせは国内外合わせて全くありませんでした。 まさかその原因が「夜中、壁越しに隣りの部屋の会話を盗み聞き中、過度にそれに熱中する余り3本10シェケル(約250円)500mlの安ビールをひっくり返して、商売道具のノートパソコンを壊してしまいました」とは誰も想像もしていないでしょう。 「ろくすっぽレポートも送ってこないのに何やってんだ、このタコ!」と関係者の皆さんからお叱りを受けること必至です。しかしこれには深い訳がありまして、単に私の変態性から生じた事故ではありません。 話の発端は私を含めた3人の“暇を持て余した男ども(ジャーナリスト)”が安息日の夕べに集まった所から始まります。 イスラエル国内はシャバット(ユダヤ教の安息日)が始まると移動手段を含む公共機関、個人商店、場所によっては銀行のATMに至るまで休日に入ります。この間は余程のことがない限り我々フリーランスのプレス関係者も動きません。というのも、どこに行くにしても、何を頼むにしても全てが閉まっていて、何かと『特別料金』みたいなものを要求され、経費がかさんでしょうがないし、相手がユダヤ人の場合なかなかアポが取れないからです。通常、この期間はその週に集めた情報や写真を整理したり、レポートを製作したりするのに充てられます。 私たちの場合、平日でも一枚も写真を撮らなかったり、誰にもインタビューしない『連絡待ち』とか『状況判断待ち』、『紹介待ち』といった待機の時間が結構あるんです。昔、ファッションモデルの仕事を始めた頃、スタジオの待合室で8時間も待った挙句、自分の撮影はたった20分で終わってしまった事がありました。その時『待つのも仕事のうちだよ』とモデルの先輩から言われたことを覚えています。ここでも同様。特に場所が紛争地な場合、自分だけいくら頑張っても物事は思うようには動きません。逆に変に動くといざという時適材適所的な発進ができなくなることがあります。同宿のアメリカ人ライター ケン曰く、「一年間イスラエル・パレスチナに滞在して、実労は3ヶ月以下。後は待機時間で、自分の精神的コンディションをどのように持っていくかが鍵だ」とのことです。 この待機の時間を「休憩時間が一杯あっていいなあ」なんて考えるのは大間違い。実はこの『待ち』がボディーブローのようにジワジワと一番精神的に堪えてきます。 人によって多少スタイルは異なりますが、私の場合、いつでも仕事が始められるようにどこに行く時でもカメラなどの必要機材などを詰めた4kg弱くらいのカメラマンベストと8kgくらいのバッグを持ち歩かなければなりません。食事だろうが、散歩だろうが、この建物内のカフェに行く時ですら携帯します。インターネットチェックと携帯電話連絡を数時間後とにし、寝ている時を除けば、食事中も買い物中も情報収集してメモや頭にインプットし続けます。夜は緊急時いつでも出動できるように緊急出動用の荷造りをしたバッグを足元に置いておき、相部屋宿泊でシャワーを浴びる時はこれをビニール袋に入れて風呂場まで持って行きます。経験上、装備を持ってない時に限ってフォトジェニックな事件は起るので、サンダルとジャージで出掛けられそうな距離でも、外出禁止令下のパレスチナ自治区を訪れる時でも装備は変えません。昨日なんか私の着用しているカメラマンベストのポケットが余りに膨らんでいるので、バスの車中で自爆テロ犯と勘違いされて大騒ぎになりました(これについてはまた後日)。 虚しいのが、こういった準備が殆ど陽の目を見ることがないということです。まあ、確かにそんなに頻繁に緊急事態が発生していたらそれも問題ですけど、時々嫌気が差すときがありますね。 日々の生活は絶えず「予定は未定」という状態で、きっちりした予定は前日になっても立てられず、決して精神衛生上良いとは言えません。よく考えてみたら、今回もイスラエル到着後ずーと取材撮影か待機状態にあり、一日も装備を置いて、仕事を離れていません。これはどう考えても好きじゃないと続きませんね。 ということで、話を元に戻しますが、その日も金曜の夜、シャバット開始までに粗方の資料整理を終えた我々いつもの3人(ケン、サニー、私)は、誰言うと無く集い、今までの仕事の成果、今後の予定などをとり止めも無くザックバランに話し合っていました。その時一番話題になったのが夜中の1時過ぎに私の隣りの部屋で時々起こる現象です。 ここの屋上プレハブの住人は基本的には私一人。ですから他に誰かがチェックインしていない限り、昼間であろうが、夜であろうが、隣りの部屋から物音が聞こえるなんてあるはずが無いわけです。にもかかわらずここ数日夜中に隣の部屋に誰かが訪れ、30分ほど過ごして出て行きます。ここのプレハブの壁は非常に薄いので、溜息やジッパーの上げ下げの音まで詳細に聞こえてきます。それから、恐らく天井を伝ってタバコの煙らしきものまでこちらに入ってくる。それが臭いからしてマリワナ。日本と違ってこの国ではそれほど大した罪ではないらしく、若者たちが集まると結構気軽にやっているみたいです。ただ、このホステルではトラブル回避のため当然厳禁となっています。 誰かがその部屋にチェックインしたのでなければ、部屋の鍵を自由に使えるのは、マネージャーやオーナー、その友人といった関係者に限定されます。しかしマリワナを厳禁している本人がわざわざここで吸っているといのもおかしな話です。普段ならどうでもいい事なんですが、その日の夜に限っては3人とも『待ち』状態にあったせいか、犯人探しのための色々な推測憶測がなされます。要は我々暇を持て余していたんですね。誰の眼がやばいとか、誰の精神状態にムラがあるとか。現場をおさえた訳でもないので、いくら話しても答えが出るわけもなく、結局そのまま解散して各自自分のベッドへ帰って行きました。 『事件』はその日の深夜に起きました。深夜3時過ぎ、いつもより遅めに誰かが隣の部屋の鍵を開けます。ケンとサニーから「もし次に何か起きたらしっかり『事実確認』をしろ」と言われていた手前、手は抜けません。その上今夜の実行犯は複数。一人はどうやらイギリス訛りっぽい英語を話す女性のようです。 幸か不幸か、こっちはベッドで寝転がっているだけで、壁の向こうで何が起きているかが手に取るように聞こえてきます。そしていつものように煙の臭いまでこちらに伝わってきました。 普段ならこれで気にせず寝てしまうのですが、今回は犯人がいったい誰なのかをケンとサニーにレポートしなければなりません。「こりゃ長くなるな」と思い、近くにあったオランダ産の安ビール『オレンジブーム』の缶を開け、長期戦に備えます。彼らとしても別に隣室に会話をしに来ているわけではないのですから殆ど会話らしい会話もないまま煙だけが部屋に充満してきます。しかし、どうしても聞こえてくる声だけでは誰なのか特定できません。こちらとしても早く決着をつけて眠りたいですから、ベッドから起き上がり、隣の部屋との境の壁まで歩いていってそこに耳をくっつけようとしました。 手に持っていたビールが邪魔になり、やや不自然な姿勢でテーブルの上の置こうとしたその瞬間、悲劇は起こりました。殆ど手付かずのビールがひっくり返り、休止していた我が相棒『TOSHIBA DynaBook SS』の右半分のキーボードに広がり、その後泡を立てながらキーボードのキーの間に吸い込まれていきます。今でもこの瞬間映像はスローモーションで私の記憶の中に収められています。急いでコンセントを抜きましたが、最近のパソコンは気が利いていて、今度はバッテリーの電源が入ってしまいました。パニックに陥りながら電源オフ作業を行なっている最中に『インターネットエクスプロラー』のアイコンがピコピコっと点滅した後、プーップーッと警報のような音がコンピューター内から聞こえてそれっきり... 日本円にして100円にも満たないビールのもたらした私に対する精神的、経済的ダメージは計り知れないものとなったばかりでなく、実質的に数日間コンピューターを使用した作業は完全にストップせざるをえないという実働のも大いに支障をきたす結果となってしまいました。 当然乾かしたところで直るものでもなく、数日待って、シャバット明けの日曜日に様々な所に問い合わせ、やっとTOSHIBAサービスセンターを見つけ出しました。当初はテルアビブに修理に持って行く予定だったのですが、友人の電話連絡でエルサレム近郊にも同系列のサービスセンターがあると聞き、急いでそこに持って行くことになりました。 余談ですが、修理依頼日にテルアビブで23人が死亡する二重自爆テロがありました。もしあの日、友人から電話連絡がなかったら、テロの場所、時間などを考えると私はかなりの確率でテルアビブのテロ被害者になっていたと思われます。まさに紙一重とはこのことではないでしょうか。 最終的には空港で還付される税金20ドルを含めても140USドル程度の修理代で収まり、事なきを得ましたが、理由が理由なだけに、こんなもん経費で落とす訳にもいかず、『戒め』の意味も含め自腹で処理させていただきました。イスラエルのコンピューター修理事情など多くを学んだとは言え、決して有意義でであったとは言えない経験でした。 「暇を持て余す男どもが集まるとロクな事をしない」 盗み聞きの私にも、隣の部屋のマリワナ喫煙者についても、確かにあてはまっている気がします。 でも隣の部屋の一人は女性だったんだけど...いや、今となってはそうだとも言い切れないか。 日本のおける生活でも、旅の中でも、物を失くしたり、忘れたり、盗まれたり、壊したりという事が極端に少なかった私ですが、今回のイスラエル現地取材中、ノートパソコンの故障を筆頭に、17mm〜35mmズームレンズのフードが割れ、メガネが真っ二つに折れ、SOS警笛と銀のお守りネックレスも無くています。取材が昔に比べハードになってきているとは言え、やはり私の『慣れ』による気に緩みも否めません。その上、トルコでは現金、トラベラーズチェック、パスポート入りの腰巻までも落とすという失態(新人カメラマン後藤君の気転のお陰で、数時間後に出てきた)をしています。 後から笑って話す事のできるアクシデントならレポートのネタのもなりますが、命や健康に関わることも多く、やはり慎重行動せねばとあらためて自分を『戒め』たいと思っています。 「暇を持て余す男どもが集まるとロクな事をしない」 ちなみにマリワナの喫煙者は結局分からず仕舞いでした。 聖地エルサレム |