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2002年 2月 6日 ガザ地区 パレスチナ自治区、ガザ出身の通訳モハメド・アブ・アサカーが生まれて初めて『自由』の意味を知ったのは東京―大阪間の新幹線の中だったという。 「あんなに長い距離を移動しても、軍の検問は一つもないし、兵士に止められることもない。機関銃なんて誰も持っていない」。 乗り合いタクシーがイスラエル軍の検問所に差し掛かった時、モハメドは思い出すように話してくれた。『自由』というのを理屈では知っていたけれど、本当の意味でそれを感じたのはその時が初めてだったという。彼のガザにおける23年間の人生にはイスラエル軍による占領と抑圧、パレスチナ自治政府への失望感しかない。 ジャイカ(JAICA)の研修のため大阪の茨木市で生活をしたモハメドは、故郷のガザにも日本のような『自由』が欲しいと考えるようになった。 「銃や爆弾を持って戦うのは抑圧に対する憤まんを爆発させているだけで、『自由』への戦いとは言い難い。貧困や占領からの脱出には教育が必要だ。環境の整った海外で多くを学び、それをガザに持ち帰って人々と共有したい」。 将来的には語学教育法をガザの大学で教えたいとモハメドは言う。 『自由』のための戦いに武器を取らない決心をしたモハメドも、イスラエルや国際社会にとっては単なるパレスチナ人のテロリスト予備軍に過ぎない。911事件以来、イスラム教徒であること自体が犯罪だと捉える傾向すらある。イギリスの大学から彼に届いた入学願書は2ヶ月も前に発送された航空便だった。ガザから発送した手紙は届くかどうかもわからない。
ガザに住むパレスチナ人はここからイスラエル側に出ることも許されない。だからテルアビブにある各国の大使館に赴くことも出来ないし、イスラエルのベングリオン国際空港を使用することも不可能である。唯一、陸路で国境を越え、エジプトのカイロから飛行機に乗るという手段が残っているが、『アラブ兄弟国』であるエジプトの空港でさえパレスチナ人は別室に拘束され、カイロ市内を自由に歩くことは出来ない。たとえ飛行機が無事にカイロを出発したとしても、到着先では彼らの多くが入国を拒否され、今来たばかりの道を犯罪者扱いで送り返されることになる。親戚や友人が『我らの誇り』として壮行会を開いてくれた翌日に...。これがパレスチナ人エリートの現実である。難民キャンプ出身で8人兄弟。暴力を否定し、働きながら大学で教育を受け、三ヶ国語を習得し、海外でよりよい教育を夢見るパレスチナ青年たちの現実である。 しかし、驚くべきことにそれでも彼らは「ハンムドゥラー(アッラーのご意思です)」とか言ってそれに耐えているのである。 「お前ら何でそんなに強いんだ?」という私の質問に、「家族や仲間、親戚といった周りの人たちが助けてくれるから」と彼らは答えた。 一般的に大学教育を受け、海外でもっと勉強したいというタイプのパレスチナ人は、アラブやイスラムのしきたりを疎ましく思っている。彼らの多くが西側社会に眼を向けているためだろう。プライバシーが保てず、男女交際も厳しく監視される社会は若者たちにとって不自由この上ない。デートどころか、ガザでは結婚前の女性と道で立ち話しすることすらままならない。 スカーフで顔を半分隠した女の子がソソクサと通り過ぎた後で、「あの娘、僕の幼なじみなんだ。今、眼で挨拶して行ったよ。うれしいなあ」などという大学生の言葉を聞くと、ちょっと微笑ましくも感じるが、当の本人たちは大変だろう。 そんな彼らでもガザにある家族や友人、周りの人との絆は大切考えているようだ。大抵の家庭は7〜8人の兄弟を抱え、人口密集地帯で暮らしているので、兄弟と友人の垣根もなくなるし、友人のお袋さんだって第二の母親のようなものだ。プライバシーはないけれど、その分コミュニティの繋がりは強い。大人たちも自分の子だけじゃなくて、近所の子もまとめて面倒を見る。みんなで助け合って貧困を乗り越えようとしているのだ。 「家族がイスラエル軍に殺されたり、家がブルドーザーで壊されたりした時、周りの人々は本気で思いやってくれる。お前は孤独じゃないぞって。ガザは貧しくて何も無いけどその優しさだけはまだ残っている」と難民キャンプ出身の若者は言う。
その通りガザは確かに貧しい。夜の10時を過ぎると大通りに人はいなくなる。開いている店もない。未舗装の道路もあるし、街灯のない暗い場所も多い。しかし夜中にガザのどこを歩こうとパレスチナ人に襲われ、金を取られるということはまず無い。大通りどころか、難民キャンプの細い路地を通っても危険は無い。運が悪くてもロバのウンチを踏むくらいだろう。これは私が危険に対して鈍感という訳ではなく、地元の人間も、ここで働く国連関係者もみな口を揃えて述べる意見だ。本当に危ないのはイスラエル軍が侵攻してきた時だけと考えていい。 |
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